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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)6820号 判決

原告 三宅正彦 外八名

被告 北日本製鉄株式会社

一、主  文

原告三宅正彦、同古沢健及び同高橋長之の請求を棄却する。

訴訟費用は四分して、その三を原告三宅正彦、同古沢健及び同高橋長之の負担とし、その一をその余の原告等の連帯負担とする。

二、事  実

一、請求の趣旨

「(一) 被告会社の昭和二十七年九月一日の臨時株主総会における

「(1) (イ) 取締役藤倉潔、同三宅正彦及び同古沢健を解任する。

(ロ) 監査役高橋長之を解任する。

(2) (イ) 伊藤顕敏、金子千尋及び金子靖夫を各取締役に選任する。

(ロ) 鈴木静江を監査役に選任する。」

との決議は存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする」

との判決を求める。

二、請求の原因

(一)  原告三宅及び同古沢は被告会社の取締役、原告高橋は同社の監査役であり、訴外藤倉潔は昭和二十七年九月二十四日死亡するまで同社の株主及び取締役であつたもので、原告藤倉清子、同藤倉英夫、同藤倉正之、同藤倉兼好、同藤倉明治及び同香月克子は、右藤倉潔の遺産相続に因り同社の株主となつたものである。

(二)(1)  被告会社は昭和二十七年九月一日臨時株主総会を開催し、請求趣旨(一)のような決議がなされたとして、その旨の登記をした。

(2) しかしながら、この決議は被告会社の株主金子靖夫(補助参加人)林芳郎及び林正治達が共謀して、突然右日時に参集し、臨時株主総会と称するものを開催し、前記の決議をして登記をすませたものに過ぎない。同人等にはもとより株主総会の招集権限がないばかりでなく、藤倉潔等の他の株主には何等の招集手続もしていないのであるから、このようなものは被告会社の株主総会とはいえず、従つて、そこでなされた前記決議もまた法律上存在しない。よつて右決議が存在しないことの確認を求める。

三、被告の答弁

(一)  「原告の請求を棄却する。」との判決を求める。

(二)(イ)  原告の主張事実のうち、藤倉潔が株主であつたこと及び同人が原告主張の日時に死亡したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(ロ) 本件の決議はつぎのとおり適法になされたものである。被告会社では、昭和二十七年八月三十日午前十一時、東京都中央区銀座東六丁目六番地東京温泉株式会社で臨時株主総会を開催した。この総会において議長藤倉潔(当時の代表取締役)は議事に入ることが可能であつたのに流会を主張して勝手に退席してしまつた。そこで金子靖夫外二名の株主は、金子を議長に選任して、総会を延期し、同年九月一日午後三時、同都港区芝田村町四丁目十八番地横須賀企業株式会社一階事務室で開くことを決議し、右日時場所に、金子靖夫外二名の株主が出席し、金子が議長となつて請求趣旨のとおりの決議をしたのである。従つて本件決議は法律上何等欠けるところなく存在する。

四、補助参加人の主張

本件決議は被告主張のとおり法律上存在するが、かりにさうでないとしても、被告会社は昭和二十八年十二月十九日商法第二百三十七条第二項の規定による裁判所の許可により株主が招集した株主総会の決議により解散して清算に入り、新しく清算人が選任され、従来の取締役の地位は消滅してしまつた。しかるに、原告三宅及び同古沢は被告会社の取締役であることに基いて本件決議の効力を争つているのであるから、右のとおり取締役の地位自体がなくなつた今となつては、訴の利益を欠くものである。

五、原告の反ばく

(一)  被告主張の昭和二十七年八月三十日の臨時株主総会は、その主張のとおり開催されたけれども、議事に入ることが不可能であつたため、改めて総会を招集することとし、議長藤倉が閉会を宣言して何の決議もしないで終了した。それ故その後において一部の株主が、勝手に延期の決議をしても法律上効力がないから、これに従つて総会を開催し、決議をしたところで、その決議は法律上存在しないことになる。

(二)(1)  補助参加人主張の解散の決議は、つぎの理由によつて無効であり、したがつて、会社が解散したことを前提とする補助参加人の主張は理由がない。

(イ) 会社については取締役職務代行者として弁護士今井常一が選任されている以上、右解散決議のための臨時株主総会は同人が招集すべきものである。しかるに同人の関知しない間に、この決議がなされたのであるから、その無効であることはいうまでもない。

(ロ) また右総会の招集が、商法第二百三十七条により裁判所の許可を得てなされても、会社の事業継続の可否については右代行者が最も適確に判断し得るところであるから、この許可をなすに際しては同人の意見を求めなければならない。しかるに、本件の場合には同人の意見を求めないで許可がなされているから、その許可が違法であり、これに基いて招集された総会における解散の決議もまた無効である。

(ハ) 被告会社を解散させれば、取締役の地位は消滅し、したがつて取締役職務代行者の地位も消滅する。代行者を解任するならとにかくこのような手続によらないで、裁判所のした仮処分決定を無意味にしてしまう決議をすることは違法であるから右解散の決議は無効である。

(ニ) 会社解散の決議をするための株主総会の招集は取締役職務代行者としては常務以外の行為であつて、これについて裁判所の許可を得ることは、別として、自らなし得ないところである。それ故代行者は、このような総会の招集をなすことを請求されても、応ずることはできない。前記法条における裁判所の許可は、取締役が自ら総会の招集をなし得るにもかゝわらずあえてしない場合にのみ、与えらるべきものである。従つて、本件のように代行者に不可能のことを求めて、これに応じなかつたとしても、許可決定をすることはできない。

(2) かりに解散の決議が有効であつたとしても、解散後も監査役の地位は依然存続しているから、監査役である原告高橋が本件決議の監査役の解任及び選任の存否を争う部分については、確認の利益があるといわなければならない。

六、証拠 <省略>

三、理  由

一、会社解散の決議の効力について。

補助参加人主張のように会社解散の決議がなされ、清算人が選任されたことは争のないところであり、原告は右解散の決議が無効であると主張して前記五の(ニ)の各理由をあげているので、以下これについて判断する。

まず右株主総会は取締役職務代行者弁護士今井常一が招集したものではないと主張しているけれども、参加人の主張するところは、この総会は商法第二百三十七条第二項により、株主がその権限に基いて招集したものであるというのであるから、主張事体失当である。

つぎに、右総会の招集許可に際し、裁判所は、前記今井常一の意見を求めなかつたと主張するけれども、裁判所が株主の申請により総会招集を許可するに際し、会社取締役の意見を求めなければならないという法律の規定なく、取締役職務代行者についても同様であるから、この主張も理由がない。

また、前記解散決議は仮処分決定を無意味にする内容を有し、無効であると主張するけれども、当裁判所のした本件仮処分決定は、たゞ、本件訴訟の判決確定に至るまで、会社の取締役としての職務の執行を禁止するとともに、その職務代行者を選任したのみであつて、会社が解散することについては、何等の禁止制限をも加えたものでないから、本件解散決議が右決定の趣旨内容に反しないことは明らかである。このように会社解散の決議をすること自体が禁止されていない以上、その決議がなされたため、仮処分決定の取消又は変更されるような事態を惹起したとしても、仮処分が本来暫定的のものであることから生ずる当然の結果であつて、これがために逆に解散決議が仮処分に反して無効であるということはできない。

さらに、取締役職務代行者は会社の常務に属しないことはできないから、これに対し会社解散の決議をするための総会を招集することを請求するのは、不可能を求めるものであつて、これに応じなかつたとしても商法第二百三十七条第二項に規定する許可を与えることはできないと主張するけれども、職務代行者といえども商法第二百七十一条第一項によつて裁判所の許可を得れば常務以外のこともできることはいうまでもないから、それ以上論ずるまでもなく失当である。

そこで被告会社は右決議によつて解散し、これまでの取締役の地位は消滅したことになる。しかるに、原告三宅及び古沢の本訴請求は、取締役である自分達を解任した本件決議の不存在を確定すれば、結局自己が依然取締役の地位にあることとなり、こゝに確認の利益があるが、解散した被告会社においては法律上取締役の地位が消滅したからには、原告等のうち取締役の地位にもとずいて本訴を提起している者については、勝訴しても依然取締役の地位にあるとは認めがたく、結局本訴において決議不存在を確定するも、なんの利益もないといわなければならない。よつて右両名の本訴請求はこの点において棄却を免れない。

二、本件決議の存否について。

被告会社は右のとおり解散したが、監査役の地位は、存続しているので、原告高橋の請求につき、本件決議の存否を判断する。

(一)  被告会社が昭和二十七年八月三十日午前十一時東京温泉株式会社で臨時株主総会を開催したことは、争のないところであるので、右総会において、被告主張のような総会を延期する旨の決議がなされたかどうかについて考察するに、成立に争のない甲第三号証及び証人金子靖夫の証言により真正に成立したものと認める乙第一号証の各記載、並びに証人金子靖夫及び同鎌田功一の各証言及び原告高橋長之本人尋問の結果を綜合すれば、つぎの事実が認められる。

「右総会の招集通知には、場所として東京温泉とあるだけだつたので、株主金子靖夫は代表取締役の藤倉潔にあらかじめ東京温泉内のどの室で開催されるかを尋ねたが、藤倉はそこにゆけばわかるというばかりであつた。金子は当日定刻前に東京温泉に株主林芳郎とともに赴き、受付係に問うたが一向要領を得なかつたのでやむなく両名で建物内を巡つたが、どの室にも会場を明示してなかつた。そのうちにたまたま監査役高橋長之に出会つたところ、金子等が定刻に出席しなかつたので流会にしたと聞き、高橋に案内させて四階の会場に着くと、藤倉はすでに流会にしたといつたが、金子等の抗議を受けて、ついに開会することに同意し、同人が議長となつて開会を宣言した。出席株主の所有株式数は被告会社の発行済株式総数四万株のうち三万六千株で、その内訳は金子靖夫一万三千株、林芳郎八千株、林正治(林芳郎が代理した)五千株、藤倉潔四千五百株、永原修次(鎌田功一が代理した)五千株であつたが、その他に藤倉潔の五百株について百株づつに分けて五人の者が代理していた。そのとき、金子が出席者の資格について異議を述べたことから争論となり、金子及び林を除く人々は「定款を調査してから改めて総会を開くことにして、本日は流会にしよう。」と口々に主張した。そこで金子は「本日はこのまゝ議決権を行使して、後日定款を調査の上、株主以外に代理権がない場合は、株主でない者の議決権行使を認めないこととして議事に入ることにしよう。」と主張したが、藤倉は流会を宣言して、金子と林を残し、一同退場してしまつた。金子と林は東京温泉の従業員から、たゞちに退室を求められたので、やむなく同温泉内の食堂に集まり、金子を議長と定めて、当日の総会を延期して、同年九月一日午後三時前記横須賀企業株式会社内でこの総会を開催することを議決したのである。」

以上の事実によれば、八月三十日の総会において、議長藤倉は、その同調者とともにはじめから流会にしようという考えを持つていて、議場が一時乱れたのを幸にして、法律上も事実上も、議事に入ることが可能であるにかゝわらず、あえて議事に入ることをさけ、閉会を宣言して一味の者とともに退場したのであり、このように議長が総会の議事進行についての権限を濫用した場合には、たとえ総会を終了する旨の宣言をしても、総会はこれによつて終ることなく、議長及び退席者は自らその権限及び権利の行使をせずじて任意退場したに過ぎないとみるのが相当である。したがつて、金子等残留株主によつてなされた延期の決議はもとより適法であるといわなければならない。

(二)  つぎに証人金子靖夫の証言と、これによつて真正に成立したと認められる乙第二号証の記載とを綜合すると、右延期の決議に基き、昭和二十七年九月一日午後三時、右横須賀企業内で、臨時株主総会を開催し、前同様金子靖夫、林芳郎、林正治(芳郎が代理した)三名の株主が出席し、金子が議長となつて議事を進行し、商法第二百五十七条第二項、第三百四十三条の要件をみたし、請求趣旨のような決議をしたことが認められ、これに反する証拠はない。前記延期の決議が適法である以上、この日の総会はもとより法律上有効である。よつてその総会が不適法であることを理由にその総会における本件決議の法律上不存在であることを主張する原告高橋の請求は失当である。

三、以上の理由で原告三宅、同古沢及び同高橋の請求を棄却する。

なお、藤倉潔は、昭和二十七年九月二十四日に死亡したので、同人の取締役としての地位はいうまでもなく消滅し、また株主として有する株主総会の決議不存在確認請求権は共益権として一身専属権であるから、これを行使した地位は、その死亡により消滅し、これを相続することもできないから、同人の訴もまた死亡によつて終了したのであるが、すでに生じた訴訟費用の負担者を定めるため、補助参加人の申立により、その相続人藤倉清子、同英夫、同正之、同兼好、同明治及び香月克子をして訴訟を受継させたのである。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川善吉 太田夏生 宮本聖司)

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